2014年10月5日日曜日

海を感じる時 市川由衣














痛々しさ、身にまとう 「海を感じる時」に主演、市川由衣:朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11348075.html?_requesturl=articles/DA3S11348075.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11348075

この映画の物語は意図的に第三項を排除している。映画のつくりもそれに準じており、そこに雰囲気(佐々木敦の言葉ではアンビエント)という代替物が侵入してくるのだ。
物語的にはカップルは子供を排除し、母は娘の彼氏を無視し、主人公は街灯を排除する。
映画の作りとしては、新たに立ち上がる雰囲気が、同時録音という技術的な努力によって勝ち取られる。劇中音楽も意図的に使われていない。
市民ケーン的な奥行きのある画面でドラマチックな描写はあるが、全体に言えるのは意図的にドラマにならないようにしているということである(中途半端だった同じ安藤尋監督の『Blue』などからは格段の進歩がある)。
ただし、第三項の排除という勝ち取られた映画的達成は、実はピンク映画の低予算でとり切る為の文法でもあり、そうしたジャンルからの脱却は 完全にはかられていない。
また、ラストシーンの海のシーンは同時録音ではないのが惜しまれる。
主演の市川由衣は熱演とは言えないが、たたずまいが素晴らしい。とはいえ徐々に魅力が増して行くかと言うとそこまではいかない。
早い時間にヌードシーンが登場するから、脱ぐことで観客の目を引きつけ、魅力的に見せて行くという手法が使えていないのだ。
だから男の方が凡庸になって行くという力関係の逆転というドラマは少し分かりづらいものになっている。それだけ男優も全体を通して魅力的(前半回想シーンはスタブローギンのようだ…冒頭のキスシーンがのちに逆転するこの関係性を集約しているが)だからでもある。

描写が丁寧なので本来90分くらいの映画が二時間になっているが、それはいいことでもある。とにかく30年前に作られていたとしたら劇的ではあっても、こうした静謐な魅力をもった映画にはならなかったであろう。

追記:
ネタバレになるがこの映画の最大の(不在の)第三項は父親で、ファザコンの話ということになる。

男が食事シーンで「いただきます」と言うのは無意識裡の第三項の召喚だが、映画に相応しくない。

参考:

「いただきます」と「ごちそうさま」の歴史を日本映画で検証してみた。~小津安二郎、木下恵介(木下惠介)、黒澤明(黒沢明)【意味がわかるとナニゲな日...


4 件のコメント:

  1.  女優ってすごいなと思うのは、例えばこんな時だ。

     いま上映中の「トーキョー・トライブ」で男の視線を釘付けにした人が、13日公開の「海を感じる時」では一転、地味で目立たないヒロイン恵美子になりきっている。

     フェロモンをきれいに削(そ)ぎ落とし、全裸で立っていてもむしろ哀感を誘う。どうしてこんなに違うのだろう。

     「色気を出そうとか消そうとか考えているわけではありません。演じる人物になろうとして、結果的にそんな風に見えているだけ。恵美子について言えば、無防備な感じを出そうと心がけていました」

     高校生の恵美子は、自分を愛してもいない先輩の洋(池松壮亮)から体の関係を迫られ、喜んで受け入れる。冷たい態度の洋に対し、恵美子は「一緒にいられれば、体だけでいい」と関係を保とうとする。1978年に発表された中沢けいの小説が原作だ。

     恵美子はいつも自ら服を脱ぐ。その姿はあまりにも痛々しい。生々しい性交シーンもたっぷりあるが、観客は劣情を催すべくもない。

     「脱ぐことでしか、愛する男性と一緒にいられないなんて、つらいですね。恵美子が洋の前で初めて脱ぐシーンでは涙が止まりませんでした」

     安藤尋(ひろし)監督は、彼女が服を脱いだり着たりするのを、長回しのカメラでじっと見つめ続ける。途中を端折らない。それが痛々しさを増幅する。

     「とても映画的な撮り方だと思いました。『カットを割らなくても、場面が持つんだよね』と安藤監督はおっしゃっていました。場の空気とか匂いを繊細にとらえる監督の感覚が大好きなんです」

     男が圧倒的に優位に立っていた2人の関係は、年月を経るにつれて徐々に変質していく。見終わった時に見えてくるのは「愛の不条理」だ。

     恵美子を演じている間じゅう、「愛って何だろう」と自問していたという。

     「愛が分かるには、愛で痛い目に遭わないといけないんじゃないでしょうか。幸せな恋愛をしている人には、この映画はつまらないかもしれません。人はつらい思いをして成長していくんですよね」

     そう語った後、ニッコリほほ笑んで「そう信じたいですよね」と言い直した。

     (文・石飛徳樹 写真・小玉重隆)

        *

     いちかわ・ゆい 1986年、東京都生まれ。01年、テレビドラマ「渋谷系女子プロレス」でデビュー。主な映画に「呪怨」「ゼブラ-マン」「アバウト・ラブ」「NANA2」「ひゃくはち」など。今春、宮本亜門演出の舞台「金閣寺」に出演。

    返信削除
  2. ラスト近くのアパート一室での二人の食事のシーン
    男がいただきますと手を合わせたのがダメだ
    第三項の失効の一貫性が無くなってしまう

    返信削除

  3. http://yaracgazou.com/?p=225949
    海を感じる時


    http://yaracgazou.com/wp-content/uploads/2018/10/17/yNE9WPR.gif
    image1.gif

    返信削除
  4. 190 名無しさん@お腹いっぱい。 (ワッチョイWW 23b1-RyGT)[sage] 2019/06/01(土) 09:11:53.43 ID:w0DFZDR00
    『海を感じる時』
    http://yaracgazou.com/?p=225949
    http://yaracgazou.com/wp-content/uploads/2018/10/17/yNE9WPR.gif

    返信削除